病理学について

Pathology
About Pathology

病理学とは

病理学とは

病理学とは、病(やまい)の理(ことわり)を明らかにするための学問です。
病気になってしまった動物たちに対し、「病気の原因は?」、「原因がどう影響しているのか?」、「診断は何か?」を探求します※3

病気を引き起こす原因を病因と呼びます。原因が動物たちに内在しているものを内因、
動物たちを取り囲む環境中に存在するものを外因といいます。病気は内因と外因の相関によって成り立っており、
病気の成立には複数の病因が関与している場合が多いです。
それぞれの因子と、その相関性を明らかにしていくことが病理学の役割であり、
結果として病理学的診断がなされます※3, 4

臨床現場における病理学の役割はとても大きく、なぜなら病院で皆様が受けている「治療」は「診断」に基づいて行われるからです。
正しい診断なくして、正しい治療を行うことはできません。医療現場における診断には様々なものがありますが、
病理学的診断は最も信頼される診断となっています。

病理学の歴史は古く、古代ギリシアのヒポクラテスらによる液体病理学説、アスクレピアデスらによる固体病理学説に端を発します。
その後、1855年にウィルヒョウが細胞病理学説を唱え、現在の病理学の基礎が築かれました※1,4
2000年以上にわたる先人たちの努力の積み重ねによって、今も、病理学は医療従事者をはじめ、
皆様からの信頼を得ることができています。

この先人たちの功績に頼るだけではなく、今まで以上の信頼を得るために、病理学者は常に努力していかなくてはなりません。
私もそんな病理学者の一人として、日々、精進しております。

  • 1: 山際三郎. 獣医病理解剖学. 1958.
  • 2: 小野豊. 家畜病理学総論. 1963.
  • 3: 日本獣医病理学専門家協会. 動物病理学総論. 第3版. 2013.
  • 4: 日本毒性病理学会. 新毒性病理組織学. 2017.

病理学的診断とは

当院で行う病理学的診断には、細胞学的診断・組織学的診断・解剖学的診断の3つがあります。

細胞学的診断(細胞診)

病変部から採取した細胞をスライドガラスに塗抹、染色した標本から得られる診断です。腫瘤(しこり)を針で穿刺する以外にも、尿・胸水・腹水・胆汁・乳汁・鼻汁・唾液・浸出液などから得られた細胞から標本を作製することがあります。無麻酔で実施でき、痛みもそれほどありません。検査へのハードルが低く、とても手軽にできる検査ですが、そこから得られる情報は貴重です。炎症や腫瘍(良性/悪性)を見分け、病原体や腫瘍の由来を推定することができます。

しかし、細胞診で採取されるサンプルは病変全体のごく一部にすぎません。採取された細胞が少ない場合、診断に至ることができない場合や、誤った診断をしてしまう場合があります。当院の場合、正診率は90%程度と思われます。このため、細胞診の検査結果だけでなく、様々な情報を総合的に判断し、治療方針を決める必要があります。
なお、他院様からのスライドの持ち込みによる検査も受け付けています。

骨髄の染色標本

組織学的診断

病変部をまとまった大きさで切除し、5um程度の厚さに切り、スライドガラスに貼り付けて染色した標本から得られる診断です。切除時は痛みを伴うため、局所麻酔または全身麻酔を必要とします。検査のハードルは高いものの、診断的な価値は非常に高いです。細胞診に比べて格段に多い細胞数を観察できるだけではなく、細胞間の構造的な関係も知ることができます。正診率はほぼ100%であり、非常に高い確率で確定診断に至ることができます。

なお、通常の染色のみで確定診断ができない場合でも、特殊染色や免疫組織化学的染色、遺伝子検査などを行うことにより、確定診断に近づくことができます(各種追加検査には追加料金が必要な場合があります)。

肺の染色標本

解剖学的診断

動物を解剖することによって全身の器官/組織を採取し、それぞれを肉眼的に観察した後、組織学的検査を行うことによって得られる診断です。動物が亡くなった後に行う検査であり、実施へのハードルが極めて高く、当院でもほぼ実施することはありません。しかし、動物が死亡した原因を明らかにすることで、例えば感染症などの場合、残された他の動物たちに対する影響の有無などを判断し、治療方針を決めることができます。(当院への直近の来院歴のない患者様については、解剖学的検査は受け付けておりません。ご了承ください)

膵臓の染色標本

Doctor Profile

当院の院長について

はじめまして。院長の増野功一です。

私は島根県で生まれ育ちました。
島根県の高校を卒業後、岐阜大学で獣医学を学びました。
卒業してから大阪の製薬会社の研究所にて、
13年にわたって薬の研究/開発をしてきました。
岐阜大学に在学している時から病理学の道に入り、
以来15年間にわたり、ずっと病理学に関わっていました。

病理学の道を探求することで得られた知識や考察力は、
臨床医として診断/治療を行うにあたり、非常に役立っています。
また、製薬会社で得られた薬に関する膨大な知見は、
適切な治療薬を選ぶ上で欠かせないものとなっています。

院長  増野 功一

Koichi Masuno, DVM, Ph.D

学歴

1998年 3月
島根県立大田高等学校理数科 卒業
1999年 4月
岐阜大学農学部獣医学科 入学
2005年 3月
同上 卒業
2006年 4月
近畿大学大学院医学研究科病理学系 入学
2010年 3月
同上 修了、博士(医学)
2012年 1月
日本毒性病理学会 毒性病理学専門家
2012年 4月
日本獣医病理学会専門家協会会員
2014年 9月
岐阜大学大学院連合獣医学研究科、博士(獣医学)

職歴

2005年 4月
塩野義製薬(株)新薬研究所
安全性研究部門・病理グループ(大阪府豊中市)
2018年 3月
同上 退職
2018年 4月
三重動物医療センター なるかわ動物病院
(三重県四日市市)
2021年 3月
同上 退職
2021年 4月
Seek Pet Clinic(愛知県一宮市)
2022年 2月
おおはし動物病院(愛知県小牧市)
2022年 10月
上2件 退職
2022年 11月
南分動物病院 開院(愛知県名古屋市)

著書・論文を見る

論文
01
Masuno K, Yanai T, Hirata A, Yonemaru K, Sakai H, Satoh M, Masegi T, Nakai Y.
Morphological and immunohistochemical features of Cryptosporidium andersoni in cattle. Vet Pathol.
2006. 202-7.
02
Uehara T, Miyoshi T, Tsuchiya N, Masuno K, Okada M, Inoue S, Torii M, Yamate J, Maruyama T.
Comparative analysis of gene expression between renal cortex and papilla in nedaplatin-induced
nephrotoxicity in rats. Hum Exp Toxicol. 2007. 767-80.
03
Hamaguchi R, Takemori K, Inoue T, Masuno K, Ito H. Short-term treatment of stroke-prone spontaneously
hypertensive rats with an AT1 receptor blocker protects against hypertensive end-organ damage by
prolonged inhibition of the renin-angiotensin system. Clin Exp Pharmacol Physiol. 2008. 1151-5.
04
Minami K, Hasegawa M, Ito H, Nakamura A, Tomii T, Matsumoto M, Orita S, Matsushima S, Miyoshi T,
Masuno K, Torii M, Koike K, Shimada S, Kanemasa T, Kihara T, Narita M, Suzuki T, Kato A.
Morphine, oxycodone, and fentanyl exhibit different analgesic profiles in mouse pain models.
J Pharmacol Sci. 2009. 60-72.
05
Yamamoto E, Maruyama T, Masuno K, Fujisawa K, Takasu N, Tsuchiya N.
Spontaneous Erythroid Leukemia in a 7-Week-Old Crl:CD (SD) Rat. J Toxicol Pathol. 2010. 91-4.
06
Masuno K, Takemori K, Inoue T, Yamamoto K, Ito H. Experimental Study on Preventive Effects of
Statin and ARB for Metabolic Syndrome: Using a New Animal Model,
Obese Stroke-prone Spontaneous Hypertensive Rats. Acta medica Kinki Univ. 2010. 33-40.
07
Takemori K, Kimura T, Shirasaka N, Inoue T, Masuno K, Ito H.
Food restriction improves glucose and lipid metabolism through Sirt1 expression: a study using
a new rat model with obesity and severe hypertension. Life Sci. 2011. 1088-94.
08
Kashiwagi E, Masuno K, Fujisawa K, Matsushima S, Torii M, Takasu N.
Glaucoma in a New Zealand White Rabbit Fed High-cholesterol Diet. J Toxicol Pathol. 2012. 51-3.
09
Masuno K, Yanai T, Sakai H, Satoh M, Kai C, Nakai Y. Pathological features of Cryptosporidium
andersoni-induced lesions in SCID mice. Exp Parasitol. 2013. 381-3.
10
Kato Y, Hirata A, Kashiwagi-Yamamoto E, Masuno K, Fujisawa K, Matsushima S, Takasu N.
Ectopic tissue consisting of a mixture of glandular gastric, intestinal, and exocrine pancreatic
tissue in the forestomach of a rat. J Toxicol Pathol. 2014. 87-90.
11
Masuno K, Fukuda Y, Kubo M, Ikarashi R, Kuraishi T, Hattori S, Kimura J, Kai C, Yanai T, Nakai Y.
Infectivity of Cryptosporidium andersoni and Cryptosporidium muris to normal and
immunosuppressive cynomolgus monkeys. J Vet Med Sci. 2014. 169-172.
12
Tanaka H, Hirata M, Shinonome S, Wada T, Iguchi M, Dohi K, Inoue M, Ishioka Y, Hojo K, Yamada T,
Sugimoto T, Masuno K, Nezasa K, Sato N, Matsuo K, Yonezawa S, Frenkel EP, Shichijo M.
Preclinical antitumor activity of S-222611, an oral reversible tyrosine kinase inhibitor of epidermal
growth factor receptor and human epidermal growth factor receptor 2. Cancer Sci. 2014. 1040-8.
13
Kashiwagi E, Tonomura Y, Kondo C, Masuno K, Fujisawa K, Tsuchiya N, Matsushima S, Torii M,
Takasu N, Izawa T, Kuwamura M, Yamate J. Involvement of neutrophil
elatinase-associated
lipocalin and osteopontin in renal tubular regeneration and interstitial fibrosis after
cisplatin-induced renal failure. Exp Toxicol Pathol. 2014. 301-11.
14
Kato Y, Kashiwagi E, Masuno K, Fujisawa K, Tsuchiya N, Matsushima S, Torii M, Takasu N.
Cutaneous mastocytosis with a mutation in the juxtamembrane domain of c-kit in a young
laboratory beagle dog. J Toxicol Pathol. 2016. 49-52.
15
Kato Y, Masuno K, Fujisawa K, Tsuchiya N, Torii M, Hishikawa A, Izawa T, Kuwamura M, Yamate J.
Characterization of pancreatic islet cell tumors and renal tumors induced by a combined
treatment of streptozotocin and nicotinamide in male SD rats. Exp Toxicol Pathol. 2017. 413-423.
16
Oka H, Masuno K, Uehara T, Okamoto T, Matsuura Y, Nakano T, Yamaguchi S.
Novel miRNA biomarkers for genotoxicity screening in mouse. Toxicology. 2018. 68-75.
著書
01
柳井徳麿, 内田和幸, 来田千晶, 浅岡由次, 酒井洋樹, 辻一, 増野功一, 高橋尚史, 平田暁大. 神経筋疾患Ⅱ.
学窓社. 2006.
02
Andrew A Lackner, Meredith A Simon, 揚山直英, 網康至, 板垣伊織, 伊藤豊志雄, 鵜殿俊史, 宇根有美,
宇野秀夫, 大石裕司, 大木孝昌, 小野文子, 加藤朗野, 倉田祥正, 小嶋聖, 児玉篤史, 後藤俊二, 佐藤宏, 清水慶子,
鈴木樹里, 鈴木照雄, 鈴木道弘, 高阪精夫, 高野淳一朗, 土屋稔, 霍野晋吉, 鶴原喬, 寺西宗広, 永田典代, 中村進一,
中村紳一郎, 奈良間功, 野村靖夫, 林雄三, 原正幸, 藤本浩二, 藤原公策, 増野功一, 柵木利昭, 松林清明, 村田浩一,
村松慎一, 森田千春, 安田充也, 柳井徳磨, 吉川泰弘. サル類の疾病カラーアトラス. 社団法人 予防衛生協会. 2011.